世界一になりたいな
僕は早稲田大学商学部出身なので、「トレーナーになりたい」と大学4年生の時親に伝えた時、
「は?何その仕事?」と言われた。
20年前というのはパーソナルトレーナーなんて仕事はほぼこの世にないようなもので、僕自身もそれが具体的に何なのか良く分かってなかったし、さらにはアスレティックトレーナーなんていうのは全く縁遠い、どうやったらなればいいのか分からない想像上の生き物レベルだった。
身の回りにもそういう仕事をしている人は誰もいなかった。でも、なぜか知らないが「それになりたい」と思ってしまった。
就職氷河期とは言え、ちゃんと就職活動をすれば真っ当な仕事につける学歴を与えてくれた親は、そんな自分を見てさぞガッカリというか、心配で仕方なかっただろう。
親父に「その仕事をしてどうなりたいんだ?」と聞かれた僕はまあバカなので、「世界一を目指す。」と真顔で答えた。
「バカか?」と言う返答がくるものと僕は思ったし、身の回りに「トレーナー」がいないのに何が世界一なのか、答えている僕自身も分からない。
でも。その返答は今思っても秀逸だった。
「何がその世界での世界一なのか知らんけど、人に接する仕事なら、接する人にとって世界一の存在になれば、それが世界一だぞ。」
その時は、その言葉の意味なんて分からなかった。なんならつい最近まで分からなかった。
しかしこれは、本質中の本質だと今は思う。
いろいろ学ぶうちに勘違いして調子に乗ってそんな言葉を忘れていた時間も長くあったけれど、今はその言葉の意味が分かる。
自分の父はマグロを追って世界を旅するという奇妙な仕事をしていたある種の職人だったんだけれど、そんな経験から繰り出した渾身のカウンターブローだったのかも知れない。
時間差で今、そのカウンターが効いている。